二十四孝に会いに行く!

中国の親孝行な人たち・二十四孝に関するものを紹介していきます。

絵巻/加言二十四孝・21 張孝張礼「兄弟喧嘩を見守る盗賊」

どちらが自分の体を盗賊に食べさせるかで兄弟げんかを始める張孝と張礼。それぞれ自分が辛い役を引き受けようとします。

『加言二十四孝』下巻 [写]国立国会図書館デジタルコレクションより

張孝張礼
此両人は兄弟也 世上飢饉の時木の実を拾ひて八十に餘る
母を養へり 弟の張礼木の実をとりに行けるが林のうちに
盗人住居て張礼を打殺し煮て喰んといふ 張礼がいふ我老
たる母を養ふにけふは未食をまゐらせざれば母に食をまゐら
せて後ここに来らんと誓言をたてて帰り母に食をすすめて後又
彼所へ行けり 兄の張孝これを聞て跡より来り我は弟よりは
身肥たれば食するには能かるべし 張礼を助けて我を殺し給へ
といふ 張礼は我先の約束なれば我を殺し給へとて兄弟死
を争ふ盗人これを聞感じて死をゆるし其上に米二石塩一駄
をあたへけり これを貰て帰り弥(いよいよ)孝を尽しけると也 米塩も元は
盗物なるべければ後日に尻が来たかは知らず 或人其後張孝張礼
に問ふて曰 義を立るもことにこそよるべけれ 故無く人を殺すといふ
盗人に義を立て命を捨るは義といふ物にはあらず癡漢といふべし
殊に飢饉にて木の実を以て母を養ふ程の時節に兄弟の内
一人にても命を失ふは不孝これより大なるは有べからず 畢竟米
塩迄をくれて命を助けたればこそよけれ いかなればかかる悪なる
ふるまひをばなしつるぞといふに張孝張礼口を揃ていふ いやいや
大盗人といふものは随分義をも立る物にて浄瑠璃哥舞妓にても
是非たすけて帰さねばならぬ場也そこは合点で書た狂言
也 うそなら先おらがやうにやつて見給へ きつと殺しはせぬ物
じやといひければ問し人あきれておきあがれとぞ云ける

 

尻が来る・・・後になって責任を問われる。後で文句を言われる。

癡漢(痴漢)・・・もともとは「愚か者」の意。

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(あらすじ)兄弟の弟、張礼が林で盗賊に出会います。盗賊はお前を殺して煮て食べるぞと脅します。張礼は「OK。家でお母さんにご飯食べさせて戻ってくるから待っててね」と言うと盗賊は張礼を一時解放します。張礼が家に戻って母親に食事をすすめ、再び盗賊の待つ林へ。事情を聞いた兄の張孝が追いかけてきて盗賊の前で「俺のほうが太ってるから俺を食べてくれ」と弟をかばいます。弟は「約束したのは僕だ」と言い張ります。盗賊は二人の様子を見て感動し、お米と塩を分けてくれました。

ここからは岡持先生の加言。人殺しに義理を立てるなんてバカなの?殺されちゃったらどうするの?と人に聞かれた張孝兄弟。いやいや大盗人とはかなり義理を立てるもの。浄瑠璃や歌舞伎でもこういう場面で盗人は捕虜を助けて帰してくれるでしょ、嘘だと思うなら君も同じようにふるまってごらんよ、きっと君を殺したりしないよ、と兄弟が言うと相手は呆れて「おきあがれ(おきゃあがれ=いい加減にしろ)」と言いました。

食人族系の映画なら二人ともさっさと食べられて終わるのよね。