漢文帝は漢の高祖の御子なり いとけなき御名は恒(こう)とぞ申侍りき 御母薄(はく)太后に孝行深くましまして 万の食事を参らせらるる時 みづからきこしめし 御試なされ上らるる也 誠に御兄弟も数多ましませども この帝ほど 仁義を行ひ 孝行なるはなかりけり この故に 陳平・周勃などいひける臣下たち 王になし参らせたり それより漢文帝と申奉る
しかるに 孝行の道は上一人より下万民まで有べきことなりと知るといへども 身に行ひ心に思入がたきを 忝くも天子の御身として かくの如きの御事尊かりし御事なり
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「嘗」という字は「なめる」と「こころみる」、両方の読み方がありました。