お互いをかばって自分の命を悪者に差し出そうとする張孝・張礼の兄弟。
国立国会図書館デジタルコレクションより
張孝 張礼
偶値緑林児 代烹云痩肥
人皆有兄弟 張氏古今稀
張孝張礼は兄弟也。世間ききんの時に。八十餘の母を養へり。このみを
拾に行たれば。一人のたえつかれたる者来て。張礼を殺てくらはんと云り。
張礼云やうは。我老たる母をもてり。けふはいまだ食事を参らせざりつる程に。
少の暇を給れ。母に食物を参らせて。頓而(やがて)参らん。若此約束をたがへば。
家に来て。一族迄を殺給へと云て帰る。母に食事を進て。約束のごとくに。
彼者の所へ到けり。兄の張孝是を聞て。又跡より行て。盗(ぬすびと)にいへる様は。
我は張礼より肥たる程に。食するによかるべし。我を殺て。張礼を扶よと云り。
又張礼は。我初よりの約束也とて。死を争ければ。彼無道成者も。兄弟の孝義を
感じて。友に死を免。か様の兄弟古今希也とて。米二石塩一駄とあたへたる。
是をとりてかへり。いよいよ孝道をなせるとなり
※たえつかれたる者・・・息も絶え絶えに、死ぬほど疲れた飢えた者(御伽草子 下巻略注より)
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盗賊に対して、僕が約束破ったら一族みんな殺していいよ、と軽く誓う張礼。
僕のほうが太ってて美味しいよ、とアピールする兄の張孝。弟の張礼は「僕が約束したんだ」と兄の命を救おうとします。
「一人のたえつかれたる者」と書かれていますが、元気そうな悪者二人組です。
上田市妙見寺の張孝・張礼。天井画です。
悪者は三人に増えてます。