郭巨 為母埋子「母のために 子を埋づむ」
郭巨は河内と云所の人也 家貧して母を養へり 妻一子をうんで三歳なれり 郭巨が老母かの孫をいつくしみ 我食を分けあたへける あるとき郭巨妻に語るやうは 貧しければ母の食事さへ不足と思ひしに 其の内を分けて孫に給はれば乏しかるべし これ偏に我が子のある故也 所詮汝と夫婦たらば 子二度あるべし 母二度あるべからず とかくこの子を埋づめて 母をよく養ひたく思ふ也と云ひければ 妻も悲しく思へども 夫の命にたがはず かの三歳の子を 引きつれて 埋づみに行きける すなはち郭巨涙をおさへて 少しほりければ 黄金の釜を掘り出だせり 其の釜に不思議の文字あり 其の文は 天孝子郭巨に賜ふ 奉行取ることあたはず 民奪ふことを得ず とあり これ天より郭巨にたまふ所なりと喜び児をも埋づめず かへりけるとかや
