孟宗は晋(しん)の世、呉の国、江夏(こうか)といふところの人なり。をさなきとき李粛(りしゅく)といへる人に従ひ学問を修行し父に早く別れ、一人の母を養ひて孝心深く晋の武王に仕えて奉行の官たり。
その母老病に冒され食の味わひも三度に変はりけるほどに、冬の寒き頃、筍のあつものを食はんと望めり。
されども{かんこん}万物根に隠るる厳寒の時節なれば、筍のあるべきいはれなけれども、もとより孝心深き孟宗なれば、なに{ }して母の望みをかなへたくとき大雪綿のごとく降りしきり、寒さもいとど耐へ難きをもさらに厭はず鍬打ち傾げて我が家を立ちいで、蓑笠に身を固め、とある竹の林に至りみれば雪に深く埋もれてあるべきやうもあらざれば、天に祈りて泣き悲しみ、雪に平伏しゐたりけるが、かかる{誠孝}を天もたちまち感応ありけん、時ならぬに大地裂け開け、筍五六本生ひいでたり。孟宗大いに喜びいさみ(?)急ぎ
(このあたりから文末まで印刷がかすれ、にじんで読みにくいです。孟宗の収穫したタケノコを食べて元気になったお母さんが長生きした、ということが書かれていると思われます)
{ }我が家へ帰り、自らこれを{ }料理て老母に与へ奉れば母感涙にむせびて我れ汝が孝心深き{ }より{ }ものなりとてよろこんで{ }やまひたちまち{ }せん{ }{ }やかになりしかば、孟宗なほも心おこたらず孝行を尽くしけるとぞ{ }までもたけの{ }孟宗名付けけり。
*{かんこん}は「乾坤(けんこん)・・・天と地」のことかなあ。
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【あらすじ】
親孝行な孟宗は真冬に筍を食べたいという病床の母親の願いを叶えるために鍬をかついで竹林へ。でも真冬に筍なんてあるわけもなし、悲しくてオンオン泣いて嘆きました。するとそのとき大地から筍が生えてきたので孟宗は大喜びで持ち帰り、母親に食べさせました。おかげで老母の病気も治り、孟宗はさらに孝行を続けました。
本の挿絵では収穫した筍を母が待つ我が家へ運ぶ姿が描かれています。
表紙では地面から筍が生えてきて驚く孟宗の姿が。
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必須モチーフ。
1.孟宗。防寒具の蓑笠を頭にかぶって身体には蓑、そして手には鍬。
2.たけのこ。
3.真冬の銀世界。
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