ぜん子はその せいし(姓字?)と じたい(?)をつまびらかにせず 相伝へて 孝行の名を称せり 父母年寄りて 眼をわづらいければ医療をとひけるに 鹿の乳を 用ひざれば癒へがたし といふ しかれとも 殺したる鹿より 乳を求むべきなら ねば 鹿の皮をかぶりて 山中へゆき 鹿に交じりて 乳を求めんとす このとき 狩人来たり 射とらんとす えん子驚き声を上げて その実(じつ)をつげたりければ 弓矢を伏せて とほりぬ かかるをさなきぎょうなれど せいしんのいたり 天も見そなはして 必死のやじり まぬかれし なるべし