この「丁蘭」は異色です。下の文章を例に取ると、普通は「ははの形を木像につくり生(いけ)る人に仕(つかへる)ごとくせり」の部分をさし絵にするところですが。
↓こういう感じにね。(「修身二十四孝」より、両親の木像に食事をお供えする丁蘭)
でも戴斗が描いたのは「一夜の内に雨風の音して木像は自から内へ帰(かへり)たるなり」の部分。木片が空中を舞ってます。嵐の夜、戸板を外して帰宅した母親の像。ホラーですね。
1819年 葛飾戴斗 二十四孝図会 The British Museum所蔵
丁蘭
刻木為父母 形容在日新
寄言諸子姪 聞早孝其親
丁蘭は河内の野王といふ所の人なり
年十五にして母におくれ長きわかれをかなしみ
ははの形を木像につくり生る人に仕ごとくせり
丁蘭が妻ある夜の事なるにいかがしてか
木像の表を火にてこがしたりしかば
かさのことくにはれ上りやがて膿血流れ、
二日を過ぎぬれば妻の頭の髪の毛
自から剃こぼちたるごとく落ちたり
大に驚わびことしければ丁蘭もふびんに思ひ
木像を大道へうつし於て妻を三年の間かよはせ
わびことをさせたれば一夜の内に雨風の音して
木像は自から内へ帰(かへり)たるなり
是よりして仮そめの事をもははの木像に
気しきを窺ひたるとなり
斯のごとくふしぎ有も丁蘭が孝行のいたれるゆへなり
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この絵を彫刻にしたと思われるのが三嶋大社の「丁蘭」。