子路は孔子の弟子なり 貧しければ藜かく(れいかく)を食ふと也 藜はあかさといへる草 「かく」は豆の葉也 親をやしなふが為に 米を百里の遠き所にせをひて行なり 親死して後 南の方楚の国の方にいたる さて身たつとくなりたれば 従車百乗と馬四疋をかけたる車を百ばかりもしたがへ 積粟(せきぞく)ともみの米をあまた積み置となり 鐘(せう)とは量(はかり)の器 七八石ばかり入る物なり
とは「しとね」なり 鼎は菜を煮る器 列とはあまた鼎を並べ 食する也 かく富貴なる身なれども 嘆きて云ひけるは もとのごとく身貧しくて「藜かく」をくらひ 米を負てなりとも 親につかへまほしけれ共 いまは親なくなり給へばせんかたなしと(也?)
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甘旨とは食にうまき味ある物 親にそなふる膳をいふ 百里の遠きに米を負ふとも 苦しとせぬなり 身出世して親は失せ給ひぬれど 育給ひし苦労の恩は忘れずとなり