10番目は楊香。
楊香やうきゃう
楊香は一人の父を持てり あるとき父ともに山中へ行きしに たちまち荒き虎に会へり。楊香父の命を失はん事を恐れて 虎を追い去らんとし侍りけれ共 かなはざるほどに 天の御あはれみを頼み 乞ひ願はくは 我いのちを虎に与へ 父を助け給へと 心さしを深くして祈りければ さすが 天もあはれと思ひ給ひけるにや 今まで猛き形にて 取り食らはんとせし虎 俄かに尾をすべて 逃げしりぞきければ 父子ともに 虎口の難を免れ つつがなく家にかへり侍るなり 是ひとへに 孝行の心ざし 深きゆへに かやうに奇特をあらはせるなるべし。
尾をすべて・・・尾をすぼめて。
真似すると虎に食べられてしまう恐れのある危険な親孝行。