董永売一身 備孝養御器
”董永は一身を売りて孝養の御器を備ふ”
孝子伝に董永は漢の人なり。家貧しふして人に雇はれて耕作をしたり。毎日一人の父を車に乗せて引きありきつつ農行をつとむ。かくて父死したりしが、その身を主人に売りて銭十貫を借り、それにて父を葬礼してかへるときに道にて一人の婦人に会ふ。そのかたちいつくしく麗しきが董永が妻とならんことを求む。董永主人のところに伴ふに主人「かどり（織物の一種）」の絹三百匹を織りなば夫妻ともに許さんといへり。その妻一月の間に三百匹のかどりを織れり。主人その早きを怪しみて二人ともに許せり。しかるに妻、夫に語りていはく我はこれ天の織女なり。天帝、君が孝行なるを助けて銭をつぐのはしむといひて天に昇れり。列仙伝を見れば董永が子をのせたり。董仲（とうちゅう）といふ。天の織女のうむところとあり。
