ゆ黔婁 嘗糞憂心 「糞を嘗めて心(しん)を憂ふ」
せん陵といふところの令となりてゆきけるが いくほどなく 胸騒ぎしきりにして 身より汗出でければ これ只ごとにあらず 故郷の父が身の上ならんかと 急ぎ帰りしに 果たして父 重き疫痢を患いけるが その早く来たれる故をいぶかりけるゆへ ありし次第を語りけん 病(びょう)なすにはなはだ 病ひあつし 医師がいふよう その糞の味あふに 苦からば癒ゆべし 甘からば 癒えがたしと いひけるゆへ 自らその糞を甞め 試みけるに 甘かりければ 力(ちから)を落としたりしが 孝心の徳にて つひに癒へしとぞ
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父親の病気の重篤なことを知ったゆ黔婁が北斗七星に病魔退散の祈りを捧げた、という一文も入れてもらえると挿絵の意味がわかりやすいのだけれど。